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私たちにとって「セックス」とは

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photo by Vecteezy

 

うちの夫は、ムラムラがたまってくると、ボディタッチが増える。

家の中ですれ違う瞬間だったり、冷蔵庫の飲み物をとるついでだったり、化粧をしてるときだったり。分かりやすく増えるので、したいんだろうな、と気づきながらも、子どもを寝かしつけた後は疲れてそんな気が起きないし、かといって子どもがお昼寝してるときはセックスよりもゆっくりお茶を飲みたい。そんな感じで、やんわりやんわり、後でね、明日ね、とかわしていたら、ある夜夫は寂しそうにこう言った。

‟You don't love me anymore”

ふだんはスーパーポジティブで強気な夫だが、「かわし」が続くと闇落ちする直前のアナキンスカイウォーカーみたいになってしまう。

‟Ofcourse,I love you. That's why I cook and clean the house.”

こうなってしまうと、いくら「愛してるから毎日ご飯をつくり、家をきれいに掃除しているのよ」と言葉で伝えてみても伝わらない。言葉だけでは伝わらないときが、夫婦をしているとある。そんなときは、セックスコミュニケーションが足りない証拠。分かってはいるのに、気分が乗らなくて困っていた。

今、井上陽水に「探し物はなんですか? 見つけにくいものですか?」と言われたら、こう即答するだろう。「昔のような性欲です」と。カバンの中も机の中も探したのに見つからないんだと。

相変わらず性欲が迷子のある日。ふと、松坂桃李君が主演した「娼年」を見てみようと思いたった。当時、全編性描写と騒がれた衝撃作だ。


中年女の放尿を見させられたり、変態夫婦の演技プレイに付き合わされたり、小指を折ってほしいと頼まれたり、なかなかカオスな映画だった。だが私の印象に残ったのは、セックスシーンではなかった。「女性もセックスもつまらない」と、死んだ魚の目で言うリョウ(松坂君)に対して、御堂静香がズバリ言うわよ! したシーンだった。

2人ですれば素敵なこと、あなたは一人でしている。
人間は探しているものしか見つけない。
あなたがつまらないと見下しているものはもっとすばらしいものよ。

(映画「娼年」より)


このセリフを聞いてハッとした。

そうだ、セックスは1人ではできない。そんな当たり前で大切なことを、改めて思い出したのだ。

イギリスのコンドームメーカーが2005年に行った「世界各国のセックス頻度と姓生活満足度」調査によると、日本のセックス頻度は26か国中、45回と最下位らしい。1位のギリシャ(138回)の三分の一。いやまて。侍JAPANは「量より質」なのだ、と思いきや、性生活満足度も2番目に低い24%ときた。

出典:社会実情データ図録

この調査結果のほかに、さんざん日本はセックスレス大国だと耳にしてきた。出産後、夫としたいと思えなくなった、という声や、自分の性欲がなくなったばかりに、求めてくる夫を獣みたいに感じて気持ち悪い、という切ない声も聞いた。

パートナーに対して、なんてひどいことを言うのだろう。結婚する前はそう思っていた。だが、実際に結婚して子供を産んだ今ならわかる。私たちは戸惑っているだけなのだ。妊娠、出産後にやってくる急激な「心」と「体」の変化に。マーベルファン向けに例えるなら「ヴェノム」が体に入ってきたときのエディみたいな。自分が知ってる自分でなくなる感覚。そんな自分をどう扱えばいいのか、自分でもよくわからないのだ。

英語圏ではセックスを「メイクラブ」とも言う。私の考えるセックス観はまさにコレだ。セックスは「愛を育む」ためにするものだと思い、夫とのそれを大切にしてきた。だから産後、感じにくくても、気分が乗らなくても、植物に水をやるようにいたしてきたのだ。

だが、2人目を産んだ後、なかなかそれが難しくなってきた。心と体の変化に、私自身が追いついていけなくなったのだ。まったく湧きあがらない性欲。夫のことは愛しているはずなのに、自分の中で低くなる優先順位。自分のことや自分について考える時間が足りなくて、自分自身を見失っていく……。

私にとって、「夫を愛してるのか」分からない状態が一番つらかった。そして拒否してしまう自分も。あんなに大切に思っていたメイクラブの時間。服も魂の鎧も脱ぎすてて、愛する人と一つになる瞬間を疎ましく思うようになるなんて。悲しい、このままではいやだと思った。

だから私はリハビリをすることにした。

まず、恋する楽しい気持ちを思い出そうと、ラブコメ映画や、王道の少女漫画にたくさん触れた。そんなことで? と思うかもしれないが、これが結構効いた。主人公に自分を重ねてキュンキュンしているうちに、夫へのときめきを思い出したのだ。私が単純なのか、人間とは単純な生き物なのか分からないが、単純でよかった。

また、女性用のアダルトサイトも見まくった。最初はいくら見てもなんにも感じないなくて焦ったが、雨ニモマケズ、風ニモマケズ、欲カムバックとばかりに見続けた。そうこうして少しづつ、私の中に眠るセクシーが目覚めたのである。

シン・ゴジラならぬ、シン・ジブン復活だ。

そして決戦の日。アマゾンで買った「ほとんど布切れ」の下着を身に着け、風呂上がりに夫の前に立ってみた。色っぽく決めたかったのに、布切れをまとい仁王立ちになる私……。ドキドキ。口から心臓が出そうなほどの緊張。夫も誘うとき、いつもこんな気持ちだったのだろうか……。

‟Wow!! You are sexy......"

恥ずかしくて死にそうな気持ちを、夫は受け止めてくれた。身に着けていた布切れはおもむろに剥がされ、床のうえでほんとの布切れになった。

めでたし、めでたし……と言いたいところだが、ゴジラと違って私たちの物語は今日も続いている。

だからこそ、日ごろのメイクラブを大切にしていこう。そんな風に思い、ときどき今も、エッチな動画を見るのである。

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