私の夫はカーナビを使わない。
厳密に言うと、カーナビの地図は見るが、ナビゲーション機能を使わないのだ。ネットワークエンジニアとして働く夫は、ハイテクなのに、である。
どのくらいハイテクかというと、「見て。自分のラボを簡単に作れるシステムを作った」と、見てもちんぷんかんぷんなパソコン画面を、朝の貴重な時間に見せてくるほどだ。
夫がカーナビを使わない理由として考えられるのは、カーナビが「日本語」で案内してくることだ。来日9年目の夫だが、やはり運転しながら第二言語を聞くのは、「掃除をしながら電話をする」レベル(男性は並行処理が苦手)で大変なことだろうと予測する。
あとは、単純にナビの声が好きじゃない? というのも、毎朝、エンジンをかけるやいなや始まる女ナビの挨拶に、間髪いれず‟SHUT UP!!”とイラついてるからだ。だが女ナビも女ナビで、懲りずに今日はアイスクリームの日だ、世界高血圧デーの日だのとアナウンスをやめないのである。
カーナビとケンカするなよ……と内心思いつつも、夫の気持ちはわかる。先日、カーナビに頼らず独自ルートで走りだしたら、延々と右折するよう促されてイラっとしたからだ。カーナビは、融通の利かないところがある。
さて、カーナビを使わない理由を、先日夫に聞いてみた。すると、「安全だから」と予想しなかった答えを返してきた。詳しく聞いてみる。
「カーナビを使うと、目の前の道路に集中できなくなるから。右に曲がれ、左に曲がれってすごい話しかけてくるから気が散る。」
話しかけられると、気が散るって……。それがナビゲーションだがな。しかし、夫の主張はあながち間違ってはいない。ナビは慎重すぎるのだ。ドライバーが曲がりそこねないよう、数百メートル前から「〇〇m先信号を右に曲がります」とアナウンスし、曲がる場所に近づいたらまた「この信号を右に曲がります」と繰り返す。この二重案内が、一度聞いたらわかる人にとっては、分かったから! となるのである。
夫は続ける。
「あと、ナビはベストなショートカットを知らないから」
目的地に早く着く裏道、ショートカット。これを知ってるのと知らないのとでは運転ライフが天と地も異なることは間違いない。かくゆう私たちは、今年のゴールデンウィークで天を見たくちだ。
なにを思ったか、5月4日の一番混むであろう日に、富士宮市にある牧場へ出かけた私たち。普通なら1時間半でつくところ、4時間もの渋滞に巻き込まれ、ゴールデンウィークの洗礼を受けた。しかも、この日はUターンラッシュ。帰りも修羅の道であることを覚悟しなければならない。ゲンナリとしていたら、運転席に座る夫がカーナビの地図を動かして、なにやら確認をしている。
「この道を行ってみよう」
夫は大通りをさけ、裏の道を行こうと言ってきたのである。かくして、大通りの渋滞
を横目に、車が二台ギリギリですれ違えるであろう奥まった小路を行くことに。しかしこれが大正解だった。みんなカーナビを使っているので、ナビが示す本通りを走っているためか、裏道はスカスカだったのである。ナビにナビされない男、夫さまさまだ。この時私は、ナビに頼らず自分の頭をつかった運転がどんなに大事か思い知ったのである。
そう、カーナビを使うと、ナビに集中して終わってしまう。本来なら運転しながら覚えるはずの道も覚えないし、景色も楽しめないし、裏道のよさを知る機会も少ない。カーナビは便利だが、自分の頭を使わないあやうさみたいなものを感じる。
先のゴールデンウィークの話がそうだ。本来であればカーナビを操作しているのは自分であるはずなのに、カーナビが提示する道を疑問を持たず行ってしまう。これではいつか、目の前が海であっても、「カーナビがここをまっすぐって言ってるから」と突き進むドライバーになりかねない。
夫がカーナビを使わない理由「安全だから」というのはつまり、そういうことだろう。ハイテクは便利さゆえに危険もはらんでいることを知っているのだ。そして使い方によって、逆に不便にもなることも。
最後に、夫に聞いてみる。
「カーナビを使わない理由、ほかにある?」
夫がニヤリとして言った。
‟It's cool”(カッコいいから)
たしかに。
いつでも自分の頭で考える夫はカッコいい。
***
次回もぜひお楽しみに。
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