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Bento(弁当)。それは、食べ物以上の威力と価値をもつ。
2回目か3回目のデートだったろうか。夫と、千葉にピクニックデートへ出かけたときのことだ。私は朝早く起き、母の手も借りながら「弁当」を作った。弁当の中身は、鶏のから揚げ、タコさんウィンナー、卵焼き、茹でブロッコリー、ミニトマト、梅キュウ巻の「THE日本の弁当」だったと思う。
とくに夫に「作って欲しい」と言われたわけではない。単純に、私が手作り弁当を持ってピクニックや公園に行くのが好きだからそうしただけのことだ。だが、私の手作り弁当を見た夫の感激と興奮はすごかった。すごすぎて一瞬、私の弁当はスーパーボールのハーフタイムショーに現れたビヨンセなのか⁉ と思ったほどだ。
‟You made this!?” (君がつくったの⁉)
この時初めて知ったが、アメリカ人の女性は、日本人女性の作るような手の込んだ弁当を作る人はほとんどいないのだそう。もしくは、そもそも弁当を作らない人が多いらしい。
言われてみれば、アメリカのドラマや映画で、彼氏とデートするからと、張り切って弁当を作るシーンや手作り弁当を食べるシーンは見たことがない。日本のドラマや漫画ではよく見るのに。こんなところにもお国の違いがあったのか、とびっくりする。
sad desk lunchという面白いサイトを見つけた。アメリカのリーマンたちが、本日のお弁当をアップしているのだが、サイト名どおり、「sad desk lunch(悲惨なデスクランチ)」ばかりなのだ。
パンにハムを挟んだだけのサンドイッチ、クラッカーと缶詰、インスタントラーメンにアボカド……。
パスタやサラダの弁当の人もいたが、ジャムを塗っただけ、ハムを挟んだだけの雑なサンドイッチと、きっただけの生野菜やフルーツを詰めてもってきてる人が、多いのなんの。
日本人にとって弁当は、蓋を開ける楽しみから、いろんなおかずがを食べる楽しみがあり、「楽しくおいしい」を重視して作られているが、アメリカ人にとって弁当とは、どれだけ時間をかけずに作るか、なのだと感じた。
というわけで、夫のあのリアクションだったのだ。私の勘違いではなく夫の目には、私の弁当は弁当界のトップディーバ、ビヨンセに写っていたのだ。
そんなわけで意図せず、手作り弁当で夫の心をわしづかみ。あの弁当デートで夫は私にラブを感じたらしい。ライクではなくて。すごすぎないか弁当の威力。
外国人と恋愛経験のある人なら分かると思うが、英語圏の男性は‟I love you”とそう簡単には言わない。恋人に言うには重すぎる言葉だからだ。だから、彼らの口から‟I love you”と言われたときは、それは勝利を意味する。私はやらなかったが、マウント富士に上って山頂から「勝ったどー!」と叫ぶといいだろう。
パートナー歴ももう8年目になるが、夫にとって私の作る弁当はいまだにビヨンセらしい。電車に弁当を忘れたときは、退勤後はるばる弁当をとりに遠くの駅まで行ってくれたほどだ。無事弁当を受け取り、ホームから「おいしいよ」とラインをもらったときは、涙がちょっと出たくらいだ。こんなに弁当を感謝してくれる人を私は知らない。
晴れた日は、家族でピクニックに行くのがお決まりの我が家。我が家における弁当のバリュー(価値)は、とてもプレシャスなのだ。
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次回もぜひお楽しみに。
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