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夫と付き合い始めのころ、私たちはSUSHIばかり食べていた。
何食べたい? と聞かれて、「なんでもいいよ」と私が答えていたからだ。
だが、私の言う「なんでもいいよ」は、リトマス試験紙だった。「なんでもいい」に夫がどう返すかで、私への愛情レベルを図っていたのだ。もし、夫が私を好きなら、私の好きそうな店を提案してくるはず……。そんな風に思っていた。
だのに。
夫は毎度、私をSUSHI屋に連れて行ったのである。自分の好きなSUSHIを、私と一緒に食べるともっと嬉しいからと。なんだそれ。可愛いかよ。
アメリカ人である夫は、ぽろっと嬉しいことを言ってくるので困る。そんなこと言われたら、毎日SUSHI屋でもいいよって思ってまうがな。
長年連れ添う夫婦は顔が似てくる、なんて言うけれど。あれはきっと同じものを食べているからだと思う。夫と一緒にSUSHIばかり食べていた私は、ある日ふとそんなことを思った。そこまでSUSHI好きではなかったはずのに、週1でSUSHIを欲する自分に気づいたからだ。
行きつけの店で同じメニューばかり食べる夫をバカにしていたくせに。今や自分が「くら寿司」でえんがわやホタテばかり食べているではないか。なんてこった、テラコッタ。
いや、まて。私は本当にSUSHIが食べたいのだろうか。私と一緒にSUSHIを食べる夫の喜ぶ顔がみたいだけではないだろうか。……もしかしたら、最初はそうだったのかもしれない。だが、いつしかSUSHIのおいしさに気づき、私のほうこそ愛する夫と一緒に食べるSUSHIに喜びを見出していたのかもしれない。夫の喜びがいつしか自分の喜びに。つまり喜びが二倍に。
イギリスのことわざに「結婚は悲しみを半分に、喜びを二倍に、そして生活費を四倍にしてくれる」と言うものがあるが、まさにこれだ。
SUSHIは私たちの関係をぐっと深め、高次なものにしてくれたのだ。そして、ことわざどおり生活費も4倍に。そう、SUSHIはお金がかかる。
愛する人と、行きつけの店で同じメニューを食べる喜び。若いころは思いもしなかったところに、幸せを見つける。
夫に「何食べたい?」と聞かれると、今でもときどき「なんでもいいよ」と返してしまう。だが夫は、その返事に怒ることもなく、‟Then, let's go KURA”(じゃあくら寿司へ行こう)と嬉しそうに言うのである。
1週回って、私の好きな店を提案してくる夫なのである。
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次回もぜひお楽しみに。
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