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たのもうーーーーー!(ドアをバァン!)
夫から浮気を自白され、「そうだ、婚活パーティへ行こう」と思い立った私は、さっそく婚活パーティに参加していた。戦場に戻るのは1年ぶりになる。
とはいえ婚活もプールも、いきなり入水すると心臓に悪い。そこで復帰戦は、体に水をぱちゃぱちゃかける要領で「回転すし型の婚活」に参戦することにした。これなら、男性が順番に目の前に流れてくるので、わざわざ自分から男性に声をかけずにすむ。
なんてったって、失恋したてなのだ。今回はいつもの肉食獣スタイルではなく、海底で大きく口を開けて獲物を待つ「あんこうスタイル」でいこう、とおもったわけである。
てなわけで、目の前を流れてくるネタをさっそく一人一人吟味……しようと思ったのだが、一人5分という短い時間で次へ流れていってしまうではないか! これでは味わってる暇がない。なんてこった、ジャガー横田。
しかもプレゼン下手のネタたちに至っては、プロフィール用紙の半分も自己紹介できずに「ぁ、それじゃあ……」と流れていく始末だ。ちょ待っ。趣味の「数学書」は読書じゃなくない⁉ 「穴釣り」ってなんやねん! 「建築物鑑賞」ってどの建物を⁉ そこ、くわしく……と手を伸ばすも時遅し。座ってるだけで参加男性全員とお知り合いになれるのはいいが、その実態はなかなか過酷なのであった。
ただびっくりしたのが、参加男性の「MQ」の高さである。MQとは、Majime quotient(まじめ指数)のことで、IQ(知能指数)をもじって私が勝手に作った造語だが、それが異常に高かったのである。
「誠実な男性(浮気しない)を探す」至上を命題に、今回参加した私にとって、飲む打つ買うに興味がなく、読む(本を)釣る(魚を)参加する(婚活)に興味のある男たちは、まさに求めているタイプだった。
だがもしかしたら結婚したいための偽りという可能性もある。本当のところは分からない。だが、たばこも吸わない、お酒もあまり飲まないと話す彼らは、共通して失敗したくない、リスクは犯したくない、という考えを持つことが分かった。
つまり夫と違い、目の前にお肉があっても飛びつかないタイプであった。厳密には、飛びつく勇気がない……というか。虎穴に入らずんば虎子を得ずなら全然OKっすみたいな。
お肉はお腹を下すかもしれないから……と慎重に、失敗しないよう、無難な選択をして生きているようだった。
もちろん、そういう生き方が悪いわけではない。それもひとつの生き方だ。ただ、困ったことに、私はそういう人にまったく魅かれなかったのだ。口では、目の前のお肉にすぐとびつくような男は嫌だ、と言いながら。いや、実際いやなのだが、獲物をゲットできるチャンスがあるのにそれを狩りに行こう、と飛びつく勇気や行動力のない男性には魅かれない、ということに気づいたのだ。
浮気や不倫はよくない。私はそういう行為を肯定しているわけではない。ただ、そういうチャンスが到来したときに、それを得ようと飛びついてしまう肉食タイプが好きか、そうでないかを知れたのは私にとって大きかった。浮気をしなさそうな男性は安心だが、自分の恋人やパートナーにするにはやや刺激や魅力に欠けると分かったのだ。
結局、回転すしではコレが一番! というネタには出会えなかった。なんだか物足りない。そこで、口直しを兼ねて親友のまりなとバーへ行くことにした。バランタインファイネストの水割りを飲みながら、夫のしたことについてああでもない、こうでもないとやり合う。
「浮気はしてもいいけど、絶対にバレないようにしてほしい」
まりなははそう言った。自身も浮気したことのある彼女らしい、浮気心も十分理解した意見にあっぱれだ。そういう考えもあるのか、と目からうろこが落ちる。
だが私はどうだろうか。私が知らなければ、浮気されても平気だろうか。
……いや、ダメだ。私は浮気したならその事実を知りたい。きちんと知ったうえで2人の関係をちゃんと「決めたい」。続けるのか、終わりにするのか。どちらにせよ知らないままでは、その決断するチャンスさえないではないか。そんなのはいやだ。
まりなと私は、「汚い水」の話で盛り上がった。
目の前に一見キレイな水がある。
だが、実はとても汚い水だとする。
この水を飲まなければならない場合、
あなたは汚い水だと知ってから飲みたいか。
それとも事実を知らないままで飲みたいか。
まりなは、浮気と同様、どうせ飲まなければならないなら「知らないまま飲みたい」派だった。いっぽう私は、「知ってから飲みたい」派だ。原因を知らずにおなかを壊すなんて、性格上まっぴらごめんなのだ。それに汚い水と分かっていれば、2杯目を「飲まない」と選択することもできる。
そうか。私は、悪いこともきちんと知りたい人間なのか。
夫から浮気を自白されたとき、胸がぎゅっとする思いだった。だけど、聞かなかればよかったとは思わなかった。夫に対しても、なんで隠し通さなかったんだ、とは思わなかった。むしろ、言ってくれて救われた。これでもう、浮気したのかと夫を疑わないですむ……と。愛する人を疑うことも、だからと言って信じるのではなく知らないふりをするのも、もう嫌だったのだ。
胸に手を当て、自分の心に耳を澄ませる。
私は夫を愛しているのか。
夫を許したいのか。
50:50(フィフティ・フィフティ)も、オーディエンスも、テレフォンも必要なかった。
答えは「YES」だった。みのさんに「ファイナルアンサー!」と即答できるくらい。
自分の出した答えを、今すぐ夫に伝えたかった。伝えずにはいられなかった。また、夫は過ちを犯すかもしれない。でも、それでもいい。
夫の家へ向かうため、タクシーに飛び乗る。
私は、ミスをミスと認められる夫となら、ミスを隠さずきちんと話してくれた夫となら、きっと、何度でもやり直せると思った。
***
ドライバーが訪ねる。
「行先は?」
「……ハッピーハウスで!」
***
次回、「仲直り」へ続く
次回もぜひお楽しみに。
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